News Release

ナノカーボン材料で細胞膜の成分を濃縮する

脂質二重膜内ドメインの酸化グラフェン上への局在化

Peer-Reviewed Publication

Toyohashi University of Technology (TUT)

酸化グラフェン上への脂質ドメインの局在化

image: 酸化グラフェンを担持したシリコン基板上に形成した2成分脂質二重膜の原子間力顕微鏡像。酸化グラフェン上(左側)にゲル相ドメインが濃縮され、シリコン基板上(右側)には観察されない。スケールバー:500 nm。 view more 

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<概要>

豊橋技術科学大学応用化学・生命工学系の研究チーム(手老龍吾教授ら)は、細胞膜モデルとなる多成分脂質二重膜内において、酸化グラフェン上に特定の脂質が濃縮される現象を見出しました。また、神経伝達や代謝などの重要な細胞膜反応がおきる場である「脂質ラフト」の成分が、酸化グラフェンの表面特性によって集められるメカニズムを明らかにしました。このことは、医療・創薬分野の研究対象として重要視される細胞膜内の脂質や膜タンパク質を濃縮・分離するための要素技術として役立つことが期待されます。

<詳細>

生命活動に必要な細胞内外での物質・情報・エネルギーのやり取りは全て、細胞膜を通して行われています。これらは神経伝達や代謝、またウイルス等の感染などに深く関わることから、生物学・医療・創薬分野での重要な研究対象です。細胞膜の基本構造は脂質二重膜であり、膜内での分子の拡散・凝集を通して特定の脂質や膜タンパク質が集まることで、細胞膜で起きる反応の制御や効率化がなされています。このような領域を脂質ドメインと呼び、その代表例がスフィンゴ脂質やコレステロールに富んだ「脂質ラフト」です。脂質や膜タンパク質を対象としたバイオセンシングやスクリーニングのためには、固体基板上に脂質ドメインの位置を制御して配置する技術が求められています。

研究チームは、単層の酸化グラフェンを担持したシリコン基板上に人工脂質二重膜を作製することで、酸化グラフェン上に脂質ドメインが濃縮されることを初めて見出しました。酸化グラフェンは、炭素の単原子シート状材料であるグラフェンに親水的な酸素官能基が付加した構造を持ちます。

流動性の異なる2種類のフォスファチジルコリン(phosphatidylcholine)を混合した脂質二重膜では、流動性の低いゲル相のドメインの多くが酸化グラフェン上に集まりました。スフィンゴ脂質、コレステロール、フォスファチジルコリンの3成分混合脂質二重膜の場合には、「脂質ラフト」の成分が酸化グラフェン上に多く存在しました。

「脂質の組成にかかわらず、流動性の低い方の脂質ドメインが酸化グラフェン上に集まります。これは、酸化グラフェンの表面には親水性領域と疎水性領域がナノメートルスケールで混ざって存在していることが原因です。脂質二重膜内にドメインが作られる最初のプロセスが、疎水性領域で優先的に起きるのです。」と研究チームのリーダーである手老龍吾教授は説明します。

<今後の展望>

固体基板上で脂質ドメインの位置を制御することで、その脂質と親和性の高い膜タンパク質も同じ場所に配置することができ、膜タンパク質を対象としたバイオセンサやスクリーニング技術の要素技術として役立つことが期待されます。また、研究チームは、「脂質ラフト」の成分だけでなく、糖脂質など生化学的に重要な脂質のドメインも同じように捕集できると考えており、細胞膜内に含まれる希少な脂質や膜タンパク質を濃縮・精製する技術の開発にも役立つと期待しています。

<論文情報>

Ryugo Tero, Yoshi Hagiwara and Shun Saito (2023). Domain Localization by Graphene Oxide in Supported Lipid Bilayers, 24 (9), 7999, doi.org/10.3390/ijms24097999.

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費JP20H02690及び日東学術振興財団からの支援を受けて行われました。


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