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イオンごとに水のダイナミクスへ与える影響が異なるのはなぜか ――イオン溶液の挙動を統一的に説明――

Peer-Reviewed Publication

Institute of Industrial Science, The University of Tokyo

イオンごとに水のダイナミクスへ与える影響が異なるのはなぜか ――イオン溶液の挙動を統一的に説明――

image: イオンの周りに形成される3種類の水の秩序の模式図 view more 

Credit: 東京大学 生産技術研究所

東京大学 先端科学技術研究センターの田中 肇 シニアプログラムアドバイザー(特任研究員/東京大学名誉教授、研究開始当時:東京大学生産技術研究所 教授)、浙江大学 シー ルイ准教授(研究開始当時:生産技術研究所 特任研究員)、カリファルニア大学 サンタバーバラ校 博士課程学生 クーパー アンソニー(研究開始当時:生産技術研究所 研究実習生)の共同研究グループは、現実に存在するイオンごとに水に与える影響を研究するという従来の方法ではなく、仮想的なイオンの電荷と大きさを連続的に変化させることで、水とイオンの相互作用のイオン種に依存した特異性を物理的に解明することに成功しました。

イオンは、水に溶けたときにイオン特有の複雑な挙動を示しますが、自然界や科学技術分野においてイオンの溶媒和が基本的に重要であるにもかかわらず、その特異性の起源は、いまだに解明されていません。

研究グループは、このようなイオン特有の性質を、イオン-水間の静電相互作用と水分子間の水素結合の競合による、イオン周りの水の構造の階層的な双極子配向、水和殻形成、方位秩序形成によって説明しました。同グループはまず、この競合を新しい長さλHB(q) (q:イオンの電荷)によって特徴づけ、溶液ダイナミクスに対するイオン特有の効果を説明しました。この新たに導入された長さは、イオン水溶液中の構造的、動的、エネルギー的なクロスオーバーを統一的に記述することが可能です。これまで、電解質水溶液を理解するために、水の連続媒体として記述をもとに、デバイ長、ビエルム長といった基本的な長さが導入されました。しかしながら、イオンが与える水への影響を理解するには、水の微視的な記述に基づき、水特有の水素結合能を考慮したλHBを導入することが、不可欠であることが明らかになりました。

また、研究グループは、イオンサイズと電荷を連続的に調整することで、イオン水和殻内の水分子の方位秩序が特定のイオンサイズと電荷の組み合わせで大きく発展することを見出しました。また、この方位秩序形成の問題が、古典的な原子の周りの電子の配置に関するトムソン問題と深い関係があることも明らかになりました。この方位秩序化は、水和殻を劇的に安定化させ、その程度によってイオン周りの水の滞留時間は主なイオンで11桁も変化することを見出しました。

これらの発見は、水溶液中のイオンプロセスの基礎となるもので、生命現象の理解や電解液の設計や応用に必要な物理原理を提供するものと期待されます。

本成果は2023年8月7日(英国夏時間)に「Nature Communications」のオンライン速報版で公開されました。


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